ベテランになるとなぜ走れなくなるのか?『体力』に関する問題
2023/12/31
30代半ばに差し掛かると、以前よりも息が上がりやすくなったり、試合を通した運動量がGPSの記録によって下がっていることがわかったり、いわゆる『走れなくなる』という現象が多くの選手に見られる様になりますが、
様々な調査を行った結果、『加齢によって走れなくなる』原因を作っているものの中でも非常に影響度の高い項目が、ほとんど対策されていないと言うことがわかりました。ここでは、その中でも特に重要度の高いもの3つについて言及していきます。
未だ現役を続けるベテラン選手のほとんどは『以前より走れなくなった』と言う実感を持ちながらプレーしていると思います。しかし、その“衰え“を作っているのは非常にシンプルな構造です。
ここで記す3つの項目をしっかり満たすだけで、ベテラン選手の『走れなくなる』は激的に改善します。
🔴①サッカー界は加齢によって酸素を取り込む機能が下がる事を知らない。
これはとてつもなく重要な項目であるにもかかわらず、見過ごされているポイント第1位です。酸素を取り込む為に必要不可欠な“ヘモグロビン“の数は、誰であっても例外なく加齢によって減少していきます。
ヘモグロビンは酸素を体内に取り込む役割を果たすため、この数値が減少することは若手の選手よりも1人だけ高地で試合をしていることと同じ状況になります。特に『少しプレスに行くだけで息が上がりる』と言った域の上がりやすさを感じている選手は、単純に高濃度の鉄分サプリを摂取するだけで劇的に改善することが多いです。
また、加齢によってヘモグロビンの値は誰であっても必ず減少するものです。試合中以前よりも早く域が上がる自覚のある選手は、一度血液検査でヘモグロビンの値を確認することをお勧めします。
私は鉄分サプリの摂取によって、ヘモグロビンの値のをさまざまな数値で多くのゲームをこなしましたが、ヘモグロビン濃度が1違うだけでもとてつもないほどゲーム中の息の切れにくさに変化を感じることができます。
単に市販のサプリメントで改善できるシンプルな問題だからこそ、見過ごされがちになる非常に重要な要素です。
🔴②細胞更新速度
ここからは‘‘30代を迎えた選手の『衰え』の正体’’、2つ目の疲労回復の速度低下について書いていきます。この部分に関しては、オランダのコンディショニングコーチ‘‘レイモンド氏’’が『選手の年齢によってトレーニングの強度や休養の期間を変えるべきである』と表立ったコメントも残っていますが、
客観的なデータを用いることで、『具体的に誰にどれくらいの休養を与えるべきか?』という部分までより明確に見えてきます。
🔴20代、30代の選手では回復力にどの程度の差があるのか?肝になるのは細胞更新速度
まず、20代と30代の選手で実際にどの程度回復力に差があるのか、具体的な数値でコンディショニングを語っている資料はあまり見かけませんが、これは他分野の研究から資料を持ち出し、参考にすることでアタリをつける事ができます。
筋肉に限らず、身体の消耗部位の修復は全て細胞分裂によって行われます。つまり、この細胞分裂の年齢別スピード(細胞更新速度)を知ることで、試合によって破壊された筋繊維の回復スピードの違いも導き出す事ができるのです。
細胞分裂に関しては、ガン治療の業界が非常に詳しい知見を保有しており、20代と30代の細胞分裂スピードの違いは大凡30%とされています。
【年齢別細胞更新速度】
10代:20日
20代:28日
30代:40日
40代:55日
つまり、20代の選手が完全に疲労を抜き切る事のできる休養期間を与えても、30代の選手はまだ70%程度の状態までしか回復していないと言うことになります。
単純に見ると、同じメニューで調整を行えば、試合当日は30代の選手は20代の選手と比べ30%疲労を残した状態であるということになりそうですが、事態はもっと深刻です。
なぜなら、30%の差というのは、あくまでお互いが平等な状態でスタートを切った際に現れる差だからです。
シーズン1週目は全員体力100%の状態でゲームに望む事ができますが、2週目からは理論上はー30%からのスタート、次の週はさらに疲労が蓄積していくことになります。
シーズンが進めば進むほど、若手とベテランのコンディションの差はどんどん開く一方。サッカー界では、 全ての選手が同じトレーニングを行う事が一般的とされていますが、これによってベテラン選手のパフォーマンスはどんどん低下してしまうのです。(最近はメニューを分けるクラブも出てきたものの十分な理解があるとは言えない)
🔴③体幹部の硬化
三つめはこれ、加齢によって誰であっても必ず筋肉繊維は固くなっていくものですが、これは試合中の選手の体力に大きな影響を及ぼします。なぜなら、全身の筋繊維が固くなるという事は全身にテーピングを施してプレーをしている状態だからです。
基本的に身体が柔らかい選手の方が脱力してプレーしている様に見えますが、実際に筋肉繊維が柔らかい選手の方が拮抗筋による反発が少ないため小さな力で関節を動かすことができます。
つまり、加齢によって全身の筋繊維が硬化すれば、体を動かすために以前よりも大きな力が必要になると言うことです。
この事は、片側の肩にだけテーピングを施し、長距離走を走ればすぐにその影響度の強さを実感する事ができます。
全身の柔軟性については他の記事で詳しく言及しているので詳しくは記載しませんが、こちらもベテラン選手がゲーム中走れなくなっていく大きな一端を担っています。
🔴細くなっても気付かないインナーマッスル。
ベテラン選手になると、トレーニングを行わない部位の筋肉は若い頃と比べどんどん細くなっていく訳ですが、太腿の様にわかりやすい部位だけでなく、この変化はどの選手も例外なく全身の部位に及んでいます。
選手自身は『足が以前より脚が細くなったかな?』程度にしか捉えることは無いかもしれませんが、自分の体重に対して出力できる部位が少なくなる事を意味するこの変化は、試合中の筋肉疲労に途轍もなく大きな影響を及ぼします。
それでは、『全身を隈なく鍛えなければならない』と途方もない話に聞こえてしまいますが、大丈夫です。もちろん、すべての部位を鍛えることができるなら話は早いのですが、『走れなくなる』という対策に関しては
上方向から潰される力に対抗する筋肉のみ鍛えれば、大きな効果を得ることができます。
試合中行われる動作の中で、最も数多く行われる動作は『走り』ですので、着地の際に加わる縦方向の力にのみ集中的に対策を講じれば、試合中のスプリント数、走行距離を効率的に向上させることができます。
つまり、高重量のスクワットを行うだけで良いのです。
高重量スクワットに関しては、既に日頃のトレーニングに取り入れている選手もいるかと思いますが、30代後半に差し掛かれば、この高重量スクワットを行なっているか否かで試合中の走りの効率に格段の差が出てきます。
例えJリーガーであっても、日常的にジムでのトレーニングをする選手は多くはないので、重要度は極めて高いと判断し、ここに書かせて頂きました。